大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成4年(ネ)359号 判決 1993年5月27日

控訴人

伊神喜弘

右訴訟代理人弁護士

福岡宗也

郷成文

山本秀師

浅井正

打田正俊

福井悦子

田原裕之

岩田宗之

伊藤邦彦

竹内浩史

蔵冨恒彦

浅野元広

上田文雄

太田勝久

尾崎祐一

小坂祥司

笹森学

中田克己

山本隼雄

杉浦豊

被控訴人

愛知県

右代表者知事

鈴木礼治

右訴訟代理人弁護士

佐治良三

後藤武夫

右指定代理人

山肥田秀憲

外一一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中被控訴人に関する部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和六一年五月一日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、並びに第二項につき仮執行の宣言を求め、

被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示中被控訴人に関する部分と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決六枚目裏二行目、同七枚目表一〇行目、同二二枚目裏八行目、同二三枚目表一〇行目、同裏六行目、同二四枚目表三行目、及び同三四枚目裏末行の各「架け」をいずれも「掛け」に、同一八枚目裏五行目の「中革派」を「中核派」にそれぞれ改める)。

(控訴代理人の陳述)

一  昭和五五年四月以降、代用監獄の事務は、司法事務と明確に分離された行政事務となった。したがって、代用監獄の直接管理者である留置主任官は、事件を主宰する捜査主任官とは、独立しているのである。それ故、事件が検察官に送致された後といえども、留置主任官は、検察官から独立して代用監獄の事務を執行すべきである。しかるところ、被疑者を勾留する施設は、監獄または代用監獄であって、接見の許否の権限を有する者は、監獄の長であり、代用監獄にあっては、留置主任官である。そして、留置主任官は、弁護人等から接見等の申出があったときは、刑訴法三九条一項に定める弁護人等の接見交通権を確保する権限と義務があり、かつ、同条三項による捜査機関の指定権行使について審査権限を有しているといわなければならない。

二  D留置係の措置は、次の点で違法性があり、かつ、過失があった。

D留置係は、留置主任官の職務代行者であったが、まず第一に、一般的指定の違法性が明白であるのに、その違法な一般的指定に従って、控訴人の接見を認めなかった。第二に、控訴人が接見を申し入れたのは、午前八時四〇分であるのに、Y検事と連絡がつかず、K部長が午前九時二五分に対応するまでの四五分間、D留置係は接見を認めなかった。第三に、控訴人が接見を申し入れた午前八時四〇分の時点においては、被疑者は在監し、かつ、取調べ等もされておらず、接見指定の要件がないことは明白であって、直ちに接見を許可すべきであったのに、D留置係は許可しなかった。

このようにして、D留置係が検察官の指定権行使の違法な運用を見逃したことは、Y検事及びK部長の違法行為を幇助したものと解すべきである。

(被控訴代理人の陳述)

いずれも争う。

控訴人の主張は、留置業務に携わる者は、被留置者に係る犯罪の捜査に従事しないという、組織体制のみならず、留置業務と捜査業務とが分離されているという、現実の状態を無視し、捜査に関する情報の面で限られた知識しか持ちえない留置主任官に、過大な要求をなすものである。警察署における留置主任官の職責は、看守勤務の警察官(看守者)を指揮監督し、被疑者の留置及び留置場の管理を行なうものであり、当該事件の捜査に何ら関与しないことはもとより、その職責も有しない。このような公務員には、検察官の捜査のための必要性に関する判断を、再審査する職務権限も義務も元来存しないことはいうまでもなく、むしろ、具体的指定がなされれば、それを遵守しようとするのが、代用監獄の公務員としての平均的判断である。

(証拠関係)<省略>

理由

一当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正・付加する外、原判決の理由説示中被控訴人に関する部分と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決三六枚目裏末行の「証拠(<省略>)」を「<書証番号等省略>」に改める。

2  原判決三七枚目裏二行目の「(二)は」の次に「、県警二八号の逮捕時刻を除き、」を加える。

3  原判決三七枚目裏四行目の「証拠」から同五行目の「弁論の全趣旨)」までを「<書証番号等省略>」に改める。

4  原判決四〇枚目裏六行目、同八行目、同四一枚目裏八行目、同四二枚目表四行目、及び同四三枚目表四行目の各「架け」をいずれも「掛け」に、同四一枚目裏七行目の「仕事」を「業務」に、同四四枚目表五行目の「同申立てのため、」を「検察官から提出された「意見書」の閲覧、及びこれに対する「反論書」作成のため、」にそれぞれ改め、同末行の次に、行を変えて次のとおり加える。

「9  愛知県警察においては、一般的指定の通知がなされている事件について、弁護人等が、被疑者との接見を申し出た場合において、具体的指定書を持参しておれば、その内容の範囲内において接見を実施し、また、具体的指定書を持参していなければ、刑訴法三九条三項により具体的指定をなす権限を有する捜査機関に連絡して、右指定権を行使するか否かを確認し、行使しなければ、直ちに接見させ、また、その指定権を行使するのであれば、双方で協議してもらい、その協議結果の内容に基づいて接見を実施するよう指導していた。D留置係は、留置主任官代行者であるところ、右と同様の指導を受けていた。」

5  原判決四五枚目裏三行目の「判決)」の次に「・民集四五巻五号九一九頁」を加える。

6 原判決四五枚目裏九行目の「一般的指定書は、」の次に「後記のように、弁護人等の接見申出に対して速やかに対応できるよう態勢を整えるとともに、場合によっては、電話による口頭の指定もなされうるということを前提にしてはじめて、」を、同一〇行目の「解され、」の次に「その限りにおいて、」を、同四六枚目表二行目の「判決」の次に「集民一六三号四七頁」をそれぞれ加え、同裏八行目の「架けて」を「掛けて」に改める。

7  原判決五〇枚目表七行目から同五一枚目表七行目までを、次のとおり改める。

「4 D留置係の行為に対する違法性の有無について

ところで、被疑者留置規則(昭和三二年国家公安委員会規則第四号、以下単に「規則」という)が昭和五五年三月一三日改正され、同年四月一日施行されたことにより、警察官署に付属して設置されている代用監獄の業務は、刑事主管の課または係から、総務主管または警務主管の課または係に移管され、その長(都道府県警察本部に設置される留置場に関しては主務課の課長補佐、派出所に設置される留置場に関しては派出所の長)が「留置主任者」(昭和五七年一一月一日以降は「留置主任官」)として、被疑者の留置及び留置場の管理についての責任者となった(規則四条二項)。このように、留置主任官は、捜査部門から切り離されたため、事件について捜査の内容、予定、その進捗状況等を当然には知りうる立場でなくなった。このため、弁護人以外の者から、接見または書類その他の物の授受の申出があったとき、及び留置人からそれらの物の自弁購入の申出があったときにおいても、それが捜査上支障があるかどうかの判断は、捜査主任官の意見を聴いてしなければならない(規則三一条一項)とされ、留置主任官が独自に判断をすることは許されていないのである。

以上のような法制上の立場を考慮すると、被疑者と弁護人等との接見交通に関して、捜査機関から予め一般的指定の通知があった場合においては、それは刑訴法三九条三項による具体的指定権を行使する意図のあることを予告していることに外ならないから、被疑者の留置及び留置場の管理について責任を有する留置主任官としては、捜査のための必要性について判断をなしうる立場にないことに鑑み、弁護人等が、検察官の具体的指定書を持参することなく、被疑者との接見を申し出たときは、仮に、被疑者が、現に在監しており、かつ、現に取調べ等を受けていないことが明らかであった場合でも、まず速やかに検察官に連絡をして、具体的指定権を行使するか否かの機会を与え、それを行使しないときには、直ちに接見を実施させ、また、検察官が右指定権を行使する場合には、双方の協議に委ね、その協議結果の内容に従って接見を実施させれば、その法的義務を尽くしたというべきである。

これを本件についてみるに、前記認定の事実によると、D留置係は、留置主任官代行者であったところ、控訴人が昭和六一年五月一日午前八時四〇分頃、D留置係に県警二八号との接見を申し出たのに対し、すでにY検事から一般的指定の通知がなされていたので、控訴人に対して、具体的指定書を所持していないことを確認したうえ、直ちに名古屋地検に電話を掛け、検察官の指示を受けようとしたのに、Y検事と連絡がつかず、次いで、同日午前八時五五分頃にも名古屋地検に電話を掛けたのに、同様にY検事と連絡がつかず、さらに、同日午前九時二〇分頃三度名古屋地検に電話を掛けたところ、依然としてY検事とは連絡がつかなかったものの、その直後、K部長と連絡がとれたので、控訴人と電話を替わったが、控訴人もK部長も、お亙いに自己の見解に固執して、接見についての協議が成立しないままに終わり、そのうち司法警察員による県警二八号に対する取調べが開始されたため、結局、控訴人は、約一時間県警留置管理課で待たされた挙句、接見の目的を遂げないまま、退出するのやむなきに至ったものである。以上の経過によると、D留置係は、その職責に基づき忠実に職務を遂行したということができる。控訴人が接見できなかったのは、前示のとおり、専ら、Y検事が一般的指定の通知をしておきながら、接見の申出に対して連絡態勢を整えておかず、速やかな対応ができなかったこと、また、K部長も具体的指定書の交付にこだわって、口頭による指定をする等、適切な指定をしなかったことによるものであって、D留置係の措置に不適切な点が存した結果ではないことが明らかである。

控訴人は、D留置係の行為に対して三点を列挙して違法性がある旨主張するところ、まず、本件における一般的指定の通知そのものが違法でないことは、前示のとおりであり、次に、D留置係は、刑訴法三九条三項にいう捜査のため必要がある場合に該当するかどうかの判断をなしうる立場にないことはもとより、捜査のため必要がないと判断することもできないのであるから、検察官から指示のあるまで接見を許さなかったのも、やむを得ないところであるし、また、当時県警二八号が、現に在監し、かつ、現に取調べを受けていなかったとしても、具体的指定の要件がないことにつき、判断ができない以上、接見を許可しなかったことに、違法性が存するということもできない。

さらに、控訴人は、Y検事及びK部長の違法行為を幇助した旨主張するが、前示のとおり、Y検事の行為が違法であるのは、連絡態勢を整えなかったため、速やかな対応ができなかった点であり、また、K部長の行為が違法であるのは、具体的指定書の交付にこだわって、電話による口頭での指定をしなかった点にあるところ、D留置係はこれらの点につき幇助したわけではないから、D留置係に幇助責任があるということもできない。

したがって、D留置係の行為に違法性があるという控訴人の主張は、採用することができない。」

二そうすると、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当であり、右と同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を失当として棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官土田勇 裁判官喜多村治雄 裁判官林道春)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例